波乱の中で

体育祭が終わると、すぐに文化祭がやってきます。
演奏曲目が多いだけでなく、生徒や先生方への大事なアピールの場なので、自然と力が入りますね。
この日も天候に恵まれ、良い演奏日和となりました。

まずは開会式、トランペットとトロンボーンでファンファーレを演奏しました。
僕はスネアドラムを演奏し、これがこの一年で唯一の打楽器担当です。
校舎の踊り場から、会場を見下ろす位置でのファンファーレはなかなか良かったかも。

さて、ステージでの演奏プログラムをご紹介しましょう。
体育祭で演奏した、「エッジウッド・フェスティバル」ファンファーレのフル・バージョンで幕を開け、吹奏楽祭で演奏した「ブルーリッジ・オーバーチュア」と続きます。
「スパニッシュ・フィーバー」で盛り上げた後・・・あれ? 
なにか演奏したはずなのですが、どうしても思い出せません。確か、その曲だけバリサクを吹いたはずなのですが。
その思い出せない曲の後には、吹奏楽定番の名曲「バンドのための民話」、そして我が部の十八番である「ブラス・フィーバー」で締めくくり、アンコールで「ヴァイブレーションズ」という内容でした。

まず、ステージでのファンファーレ前から隠れた大チョンボが発生です。
この日は演奏を録音するために、カセットデッキを設置してマイクを2本立て、準備万端整えたというのに、録音ボタンを押す大事な役目を忘れてしまった人がいたのです。
それは・・・指揮台に立ったM先生、その人です!
途中で気づいたらしく、後半の民話からは録音されていたのはご愛敬でしょうか。
僕らが知ったのは、もちろんすべてが終わった後のことだったのですが(苦笑)。

そして、今度は僕の大失敗。
この年の曲目紹介は、僕が担当することになっていたのですが、いざ本番が始まってポケットに手を入れると・・・「無い!?」
苦労して作った原稿が、どこにも無いことに気づきました(汗)。
自分で作った原稿なので、断片的には覚えていたこともあり、何食わぬ顔でマイクを握った僕でしたが、この時すでに精神的均衡を欠いています。
うろ覚えの文章をアドリブで繋げ、思いつくままに喋ったわけですが、曲目が進むに連れて、いつボロが出てもおかしくない状態でした。

それでは肝心の演奏面にも触れておきましょう。
まずはスパニッシュ・フィーバー。これは名実ともに「メチャクチャ」になってしまいました。
木管とラッパが、バラバラに別の部屋で練習しているような感じといえばいいのかな。
この演奏が録音されていなかったのは、まさに不幸中の幸いですが、失敗例としてはかなり貴重だったかも知れません。

それからバンドのための民話。この曲はしっとりとした中間部でフルートとクラリネットの掛け合いがあるのですが、ある小節で突然、一拍ずれてしまったのです。
後ろで聴いている金管連中にどよめきが走った次の瞬間には、なぜか何事もなかったかのようにピタッと揃ってしまったのが、可笑しかったですね。

さて、アンコール前の最後の曲、ブラス・フィーバーです。
しかし、ここでかねてよりの懸念が、現実のものとなりました。
曲目紹介する僕の頭の中にあるはずの、この曲に関するデータが突如欠落したのです。
進行を遮るように響き渡る校内放送に苛つきながら、再構築を試みましたが間に合わず、「さっき言ったような気がする」単語を適当にくっつけて、早々に切り上げてしまいました。

椅子に座ってチューバを構え、演奏姿勢をとりましたが動揺は収まりません。椅子と楽器の位置関係が良くありませんでした。
演奏が始まり、3小節目から僕のチューバが入るのですが、4小節目に楽器が「ガクッ」とずれてしまって、指がピストンからズルッと外れてしまいました。まさに痛恨の大失敗。
その後は立ち直れましたが、まだ安心は出来ません。もう1曲、アンコールが残っているのですから。

昨年の文化祭、拍手もなにもない中での「アンコールにお応えします」に驚いた、という話は前述しました。
そこで、それ以来進んできたプロジェクトがついに本日、発動します。
名付けて、「ブラバンさくらの会(正式名称)」。
つまり、事前にアンコールの手拍子をしてくれる人たち(さくら)を用意しておこう、というもの。
こんな事に付き合わされるのは、やっぱりといいますか、生徒会の諸君なんですね。
ちゃんとこの日のためにマニュアル作って、前日に教室で練習会までやったんですよ。

ブラス・フィーバーが終わり、指揮者に促されて全員が起立。
ここで僕はチューバを右手一本に持ち替え、かねて待機のメンバーに指示を送るのです。
しかし、生徒会も忙しいので人数も予定の三分の一(たった2人)。それに、ここでまたもや無粋な校内放送が。
それでも指示を出し続け、M先生はなんとか手拍子の中で「アンコールにお応えします」と言えたのでした(苦笑)。

さぁ最後の曲、ヴァイブレーションズの演奏です。
この曲は「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」シリーズの中の一曲で、当時のプロ野球ニュースでも使用されていました。
アルト・サックスとトランペットのアドリブソロがある、カッコイイ曲ですね。
しかし、このアルト・サックスに問題があったのです。

じつはこの学園祭の直前、何が気に入らなかったのか、アルト担当のコンサートマスターがいきなり退部してしまったのです。
サックス陣はこの時点で壊滅状態だったのですが、この曲をやる気満々だった上に時間もないので、曲目変更は考えませんでした。
で、ソロを吹ける人がいないので、いつもの最後の手段。
「俺が吹く!」
練習で僕がアルトを吹いたのは本番前の2・3日だけで、ほとんどぶっつけ本番でしたが、その時はもう、怖いモノはありませんでした。

当日の演奏では、ホルンの子にエレキ・ベースを担当してもらったので、低音は文句なし。
この曲だけは何も気にせず、サックスが吹けます(アルトだけど)。
演奏が始まって、自分のソロが近づいてくるわけですが、ふとある考えが頭をよぎりました。
「ソロはやっぱり、立ったほうが良いのかな。」
16小節くらいのソロだと、普通は席を立ってスタンドプレイするんですよね。
こう考えてしまうと、直前1小節の8分音符が「ダダダダダダダダ!」。
急速に、目の前が真っ白になったのを覚えています・・・。

そして次の瞬間、視界が回復したときには、僕はすでに席を立っていました。
隣で吹いていたトロンボーンのM君が、驚いているのが気配で分かります。
まったく打ち合わせ無しで、心の準備も何もないんですから、当の本人が一番驚いているんですけど。
アンブシュアも滅茶苦茶で、音質も良くなかったのですが、懸命に吹き終わってお辞儀をしたとき、かすかに拍手が聞こえました。
お義理を知っている他校の吹奏楽部員がいたのでしょうか。とても嬉しかったです。
なにせスタンドアップするつもりは毛頭なかったものですから、さくらの会にも根回ししていませんでしたからね。
演奏終了後、ユーフォニアムのS君が「(ソロで)立ったのは結果的に良かったね」って言ってくれたのに救われました(苦笑)。

トラブルやミスの連続でしたが、力を出し切った文化祭のステージが終了です。
この日を最後に、我々3年生は引退することになります。
といっても僕も含めて何名かは、11月のバンド・フェスティバルにも出演することになるんですけどね。

そうそう、演奏が終わって部室に戻った僕たちは、早速録音したテープを聴こうとしました。
するとM先生が苦笑いをしながら「(録音ボタンを押すのを)忘れとった!」ですって(笑)。