大きなバトン
さて、2学期が始まりました。9月下旬、まずは体育祭です。
この頃、体育祭で演奏するのは「行進曲」「ファンファーレ」「君が代」「校歌」の4曲くらいでした。
しかし、急激に増えた生徒数の影響で、入場行進の中止が早々に決まってしまったのです。
わずかな演奏機会のうち、大半が吹き飛んでしまったわけで、この年の体育祭は、演奏はほとんど記憶に残っていません。
そのかわり、自分が参加した唯一の競技でもある「部紹介リレー」を、とても鮮明に覚えています。
さて、その名の通り読んで字の如く、自分たちの吹奏楽部をアピールしなくてはならないリレーです。
そこで誰が言い出したのかは忘れましたが、「チューバをバトンにしてリレーしよう!」ということになりました。
たしかにアピール度は文句なし。これは当然ウケ狙いですからね。
出場選手を選抜し、アンカーは僕に決定。
リレー選手の選考で僕の名前が挙がるなんて、有史以来初めてなんですが、やっぱりチューバだから?
まぁ、スピードを競う競技ではありませんからね。だからこそ、選手全員には厳命しましたよ。
「転ばないように気をつけよう。それと楽器は死んでも落とすな!」とね。
リレーは体育系と文化系に分けて行われます。吹奏楽部は当然ながら文化系グループ。
「位置について、よ~い、ドン!!」
さぁ、各部が一斉にスタートしました。しかし、ここで異変が起こります。
他の部すべてが、いきなりリレー本気モードで走り始めたのです。
白衣を着たり、ペンなどの小物を持ったりはしているものの、「部活紹介」というテーマを忘れた全力疾走。
これに驚いたのは僕たち吹奏楽部チームのメンバーたちです。
ただでさえ大きくて重たい楽器を持ってトラックを走らなければならないのですから、他チームとの差は広がるばかりです。いや実際、チューバを持って走るというのは、想像以上に難しいものでした。
「吹奏楽部、頑張ってください!」
という女の子のアナウンスが、グラウンドにむなしく響き渡ります。
そして、やっとアンカーである僕の手にチューバがたどり着きました。
その時すでに周回遅れで、トラックを走るのは僕一人だけです。こうなればもう自棄にもなりますよ。
それでなくても足が遅いのに、チューバを持ってひたすら走る姿には、悲壮感すら漂っていたことでしょう。
ゼェゼェ、ドタドタ、ハァハァ、ドタバタ・・・、僕は懸命に走りながらも「最後の使命を果たさなければ」という責任感に燃えていました。
ようやくゴールにたどり着こうとする直前、テントの前で立ち止まると来賓席に一礼。
ベルを向けると、「ブォッ!」と一発、フォルテシシモ!
本当は、なにかワンフレーズ吹こうかな、とも思っていたのですが、息が切れててこれが精一杯でした。
それでもこれが大好評。来賓席からたくさんの拍手を浴びながらゴールすることが出来ましたし、先生方からも「よぅ吹いた!」とのお褒めの言葉をいただきました。
他の部が「部活紹介」というテーマを放棄していたので、アピール度は満点でした。
最初はどうなるかと思いましたが、最後はおいしいトコを独り占め。
意外な結末に気分は最高です!(笑)
さて、リレーは無事に終了し、チューバも無傷でケースに帰ってきましたが、実は第2ピストンが走っている最中に緩んで外れてしまい、グラウンドに落ちてしまったんです。
みんな一生懸命走ったので、誰も気づかなかったんですね。
リレー終了後、すぐに拾われて僕の手元に戻ってきたのですが、もし来賓席の前でワンフレーズを吹こうとしていたら、ピストン無しでどうなったでしょう(笑)。
